HISTORY
日本の競馬で初めて発馬機を導入したのは、明治40(1907)年の京浜競馬倶楽部である。オーストラリアから輸入されたこの発馬機は、発走地点に渡された幅 数センチの白いテープを、スタートのタイミングで前方上方に撥ね上げるものだった。いわゆる「バリヤー式」の発馬機である。
それ以前の発走は、スターターによる旗の合図で行われていた。旗による発走では当然のようにフライングが頻発し、公正な発走とは言いにくいものだった。そこで発走地点にテープを渡すことで、フライングを防止しようとするものである。
この発馬機は、それまでの発走における最大の問題を解決できるとあって、京浜競馬倶楽部(後に東京競馬倶楽部に統合)だけでなく、全国の11 競馬倶楽部で使用されるようになった。しかしこの発馬機で用いられたテープは織物で、強度はさほど強くなかった。そのため、馬が突進することで切断されてしまうこともたびたびだった。
またバリヤー式発馬機による発走にも問題があった。他馬の機先を制したいために、発走地点で馬が静止せず、回転したり突進したり、他馬と接触したりといった事例が頻発していた。そうした接触などが原因で一番人気馬が出遅れたケースが騒動に発展することもあった。
そのため、バリヤー式に変わる新しい発馬機が求められた。すでにアメリカでは、馬を1頭ずつ収容できる、いわゆる箱形発馬機が標準になっており、日本においても箱形発馬機の導入が検討されることになった。
その結果、ニュージーランドのエドウィン・ハズウェル・ウッド氏の考案による発馬機、いわゆるウッド式発馬機の導入が決定した。ウッド式発馬機は、馬が入る馬房の前後に扉がついており、後扉を開いて馬を入れ、発走時には前扉を開いて馬がスタートを切るという、現在も使われている発馬機と同様のものである。 機械の素材としては主枠にスチール・パイプとアルミニウム合金を使っており、4馬房をひとつの単位として組み立てることができる。前扉にも、この4馬房ごとに引き金1個がついており、この引き金に連結された4個のレバー(各馬房ごとに1個)が、引き金の作動を受けて開くことになる。
我が社が初めて開発した発馬機である。発馬機としては初めて油圧機構を採用した、当時としては画期的な発馬機だった。油圧機構の採用によって、非常にスムーズな移動・設置ができるようになった。
また、このJSG48型の大きな特徴として、ウッド式発馬機の大きな難点であった設置パイプを除去したことがある。各馬房(枠)は両端の橋脚に渡された橋梁から吊り下がる「橋梁型」となり、これが現在まで続くフレーム構造発馬機の基本形となった。
前扉の開扉機構は当初、ウッド式と同様のワイヤー方式であったが、後に逆作動マグネットと動力スプリングが採用された。さらに発走時の本体の揺れを極力抑えるため、アウトリガーを採用した。
JSG48型の耐用年数の経過に合わせて開発されたのが、JSG60型である。
このJSG60型では、発馬機を連結する際に幅員を減少させるため、車輪を噛み合わせる輪距を前後とも同じにして、フロント側を左にリア側を右に偏らせて噛み合わせる方法に変更した。
また、後扉のロック機構も、左右を押し閉めることでカギ型の掛け金が上下動して噛み合ってロックされ、外すときは片方を掛け金のレバーを持ち上げるという、まったく新しい方式に変えられた。
さらに、本体フレーム構造をより強固にするため、パイプを丸パイプから角パイプに変更したほか、馬が枠内で立ち上がったり潜ったりといった不要な動きをすることを抑えるため枠内前後長を200mm 短くする、枠内で立ち上がった馬の前脚がかからないよう前扉の上下長を上に300mm 伸ばすといった改良を施した。
社名変更後の最初の発馬機で、名称に「JSS」が付くことになった。
このJSS90型でもっとも特徴的な変更は、発馬機のカラーリングである。それまでは一貫して青色だったものを、近代競馬にふさわしい色彩ということでJRA のイメージカラー(3色分け)で彩色することになった。また、ファンサービスの一環として場名プレートを発馬機上部に取り付けた。
騎手と馬の安全性を高めるための措置として、枠内および後扉周辺のパイプにウレタン製の保護プロテクターを装着したほか、馬が立ち上がったり煽ったりしてスタートしたときに騎手が頭をぶつけないよう、鴨居も50mm 高くした。また、枠入り不良馬や枠内でのアクシデントに対応するため、前扉の手開け装置(手開けピン)を採用した。
そのほか、連結用シリンダーに吊り下げ装置「スプリング・バランサー」を取り付けて作業性の向上を図る、後扉係止装置を新型ロックピンで止める方式に変更、タイヤの取り付け位置を変えて走行時の安定性向上を図る、といった改良が行われた。
このJSS95型では、JSG60型以来の懸案のひとつであった後扉の開閉機構を進化させたほか、人馬の安全性、信頼性をさらに高めるための改良を加えた。
後扉については係止装置(ロックピン方式)を改良して、閉扉時の音を減少させることに成功した。
また、馬が後扉にモタレた際に下部が曲がらないように強度を増すため、係止装置の取り付け位置を60mm 下げた。また、枠内パーティションパイプの補強と耐震性向上のため、丸パイプと丸パイプの間に20mm の補強板を入れる、枠内の見通しをよくするためサクションカップ取付座を直水平型にする、前扉の左右の重量差を減らすため、ラージラッチレバーおよびアマチュア保持装置の材質を変更して軽量化した、といった変更を加えた。
この新型発馬機は、発馬機内での人馬の安全性、枠内の視野拡大、作業上の安全性、操作性の向上にとくに力を入れて開発された。まず、枠内パーティションパイプを補強して発馬機全体の耐震性を向上させるため、パッション縦パイプに小判型パイプを採用した。
また、馬の枠内での挙動に対しては、枠内で立ち上がった馬の前脚が隣枠に侵入することを極力防ぐため、パッション斜めパイプの位置を210mm 高くし、騎手の危険回避のために仕切り板を長方形にして金網取り付け部との間に「足掛け空間」を設けた。同時に、枠内で馬がモタレたときの衝撃を和らげるために、フットプレート部に「樹脂ハンドレール」を装着した。
さらに、発馬時の出遅れ防止策として「コーナーカバー」を新たに装着する、前扉の強度アップのため金網を従来の鉄線溶接工法から鉄板を打ち抜いたものに変え、さらに樹脂コーティングを施す、枠内からの視認性向上のため金網の彩色を黒色にする、連結用シリンダーの吊り下げ装置「スプリング・バランサー」の取り付け位置を発馬機上部へ移動、といった改良を加えた。
JSS20型をベースに、本体構造の強化、騎手と馬の安全、さらに操作性の向上と移動時の利便性向上を目指して開発されたのが、このJSS30型である。 大きな特徴が、発走体勢が整ったことを知らせる「枠入り確認ランプ」をフロントとリアのそれぞれに装着したこと。
本体の強化としては、馬が前扉や後扉を蹴った場合の破損を防ぐため、前扉のパイプ肉厚を1.9 tから2.9 tへ、後扉のパイプ肉厚を1.6tから3.2 tとして強度を増している。また、馬が蹴った際の衝撃音を緩和するために、クッションの表面を軟らかい材質に変え、厚みも60mm に増した。
安全性についても、枠内で馬が蹴った際に後脚がパッション用ステップにかかることを防ぐためにカットステップを採用する対応をとった。このとき枠内での馬の無駄な動きを抑える必要があるので、側面プロテクターを中間より後方にかけて緩やかに30mm の膨らみを設けた。また、枠内で立ち上がった馬の前脚が前扉に掛からないよう、上下長を50mm 上方に伸ばして1,470mm とした。
さらに移動の利便性を高めるため、手動ハンドルの取り付け位置を前扉側に100mm 近づけて操作範囲を広げ、走行時の操作性、安定性を向上させた。
また、ローカル競馬場におけるTR 機の廃止に伴って、開催用発馬機の8枠、10 枠に矯正枠を設け、練習用としても使用できるようにした。
12枠、8枠の発馬機を揃えました。それらの発馬機は連結シリンダーと自動カプラーによって接続され、その連結状態のまま移動が可能です。また機能性を重視した操作パネルはコンパクト設計でとても使いやすく、かつ各パーツ位置や形状にも配慮し、耐久性の向上を図るとともに軽量な構造を実現しました。
さらに、移動時の操作ハンドル性能についてもJSS30型同様軽く、移動がスムーズに行えます。
競馬は、その公正さの上になりたっています。”常に公正なスタート”そのために様々な技術開発を行なって参りました。その高い技術を結集したJSS40型の完成は、競馬の信頼へと繋がっています。
競馬場は木々や芝生など緑がいっぱいです。そんな明るく気持ちよい空間に溶け込むようなカラーリングを施しました。JRAのシンボルマークと場名も配置を変え、とても解りやすくしました。
発馬機に求められるもう1つの重要な条件は安全性です。JSS30型の良さを残し、さらに問題点を改良したJSS40型は、馬と人をアクシデントから保護することができ、より優しいゲートになりました。
枠入れに伴う各馬の緊張を軽減するためには、いかにスピーディーに全馬をゲートに納めるか、またいち早くスターターに知らせるかが重要です。このため、全ての人が目で見てわかる枠入り確認ランプをJSS30型に引き続き搭載しました。